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さくらのころ 

2017, 04. 17 (Mon) 17:43




あの旅の途中、立ち寄ったエブラーナ。季節はまだやってきたばかりの春で。

薄紅色のとてもきれいな花が咲いていたの。




さくらのころ




さあっと音を立て吹き抜ける風。視界いっぱいに舞い散る花びら。
あの日わたしが見たその景色は、本当に夢みたいにきれいで。
しばらくの間、言葉もなく見とれてたんだ。

春の光の中、まるで踊るみたいに。ちいさな淡いひとひらたちが舞い落ちていくその様子を、わたしの目は追ってしまう。
乾いた地面にたどり着いたあとも、軽やかな花びらはくるくると踊り続けて。
そうやって視線を動かした先、ふと足元に、咲いた姿のまま落ちてしまったらしい一輪をみつけた。
だからわたしはそっとそれを拾ったの。

『この花、なんていうの?』

訊ねたわたしに、あなたが教えてくれたんだ。

『さくらだよ』

…さくら。
穏やかに言う声。わたしの指先で揺れる、淡い一輪を見つめながら。

あのときのあなた、いつもよりひどく優しい目をしてた。

だから、忘れられない景色になったの。
あなたがあんまり愛おしそうに、一輪のさくらを見つめてたから。あなたがあんまり愛おしそうに、その花の名前を教えてくれたから。

どうしてかな。あのとき、胸の奥のほうがつきんとしたんだよ。

この景色をなくしたくないって、そう思ったのかもしれない。
幾つかの言葉をあなたと交わしてから。『じゃあさ』って、気づけばわたし口にしてた。

『…また見に来ていい?来年』

あなたに訊ねる。

来年の同じ頃にね。もういちど、このさくらを。
もういちど、ね。こんな風にさくらを見つめる、あなたのことを。
見に来たいって、そう思ったんだ。

『おう、来い』って。あなたから短い返事。少しはにかむみたいな、そんな笑顔で。

…それが、すごく嬉しかったな。どうしてか、すごくすごく。嬉しかったの。

『うん、じゃあ、約束ね』

自分の小指を差しだしたわたし。
あなたは骨ばった小指をわたしの小指にそっと絡めてくれたよね。

『約束、な』

そう、深い音の声で呟きながら。

…そしてわたしはあなたと繋いだ指をそっと見つめる。

ほんとうは、来年のことなんてわからないって、すこし思ったけれどね。

もしわたしたちが本懐を遂げ、この旅が無事終わっていたとして。来年の同じ頃、わたしはどうしてるのか。
あなたは、どうしてるのか。

すべてが終わって平和が訪れたら、わたしたちがまた会うことなんて…あるのかなって。

生まれた場所も、境遇も、わたしたち全然違ってたもの。
それは違いすぎるくらいに。

約束したところで、それが叶うかわからないくらいに。

でもね。
繋ぎたかった。
いつか途切れてしまうとしても。叶わないとしても。

この先の未来を約束する、指と、指を。

『…ぜったいだからな』

ふいに、ぽつりと聞こえたあなたの声。わたしは引きつけられてはっと顔をあげた。

すこし灰みがかった綺麗な紫と目があう。

『…えと』
『ぜったい、約束だからな。来年また来いよ、桜見に』
『…う、うん』
『たとえ来年の今頃、どこにいよーとなにしてよーとどうなってよーと』
『うん…』
『ぜったいにエブラーナに来い』
『…うん、わかったよ』
『ぜったいに。な!』
『うん…ぜったいに。だね』
『おう!ぜったい!ぜったい、だ!』

強く言い切る声に、わたし思わず笑ってしまった。
だってあのときのあなたの言い方、なんだかすごく子供じみてた。なんどもなんども『ぜったい』って繰り返してて…

でもふと真面目な顔になったあなたは、わたしの指先にあった一輪の桜をそっと奪った。
不思議に思いながら見つめた先で、あなたの煙る紫の瞳がぐっと近くなって。

『…待ってるから。だから…ぜったい、来いよ』


桜のころ。

まっすぐな声、まっすぐな瞳。
わたしの目の中に映るあなた。その指先でさくらが一輪、揺れる。


それはあの旅の途中の、エブラーナでの想い出。あなたと交わした、さくらの咲く頃の約束。




*-*-*-*-*-*-*-*-*-* -*-*-*-*-*-*-*-*-*-* -*-*-*-*-*-*-*-*-*




春。満開の桜の下を歩く。
風が吹いて舞い散る花びら。薄紅が光の中、柔らかに溶けていく。


…あのときの約束をわたしは違えることなく、次にやって来た春にはエブラーナへと足を延ばした。
ううん、正確に言えば『次の春』どころの話じゃなくて。その次の春も、そのまた次の春も…さらにその次の春にも…。
春が来るたびに、わたしは遠い異国の地を訪った。

エッジはいつもそんなわたしを満開の桜の中で迎えてくれたんだ。とても嬉しそうな顔をして。
そして必ず言ってくれたの。咲き誇る桜の下で。
『来年もまた来いよ』って。毎年、一字一句違えることなく。

不思議だった。どうしてわたしはそうやってエッジに誘われるままに、春になれば毎年必ずエブラーナを訪ねてしまうんだろうって。
桜が見たいから…?
でもそれだけの理由じゃないこと、ほんとは自分でもわかってたんだ。

…あなたが居たから。あなたがわたしを、桜の下で待っていたから。

わたしはわたしなりに悩むこともあって。
あの月での戦いのあと、程なくしてわたしは幻界からミストへと移り住んだ。わたしの生まれたミストの村。
そこでなんとかひとりで暮らしながらも…でも、どうしてかな。ときどき、自分の居場所を見つけられないような…そんな感覚になる時期もあったりしたんだよ。

ミストはわたしの生まれた村なのに。
お母さんと暮らした場所なのに。

…幻界に帰ってしまいたい。そう口に出したことは多分いちどもなかったけれど。
拠り所のなさが、心の底のほうから。ぷくぷくとあぶくみたいに湧いてくるようで。

でも…春になれば、あの桜の下であなたが待っていたから。
あなたと小指を繋いで。旅の途中のあの日、約束したから。

日常の中、ふいに迷子になったかのような不安が襲ってくるとき、ひとり取り残された気持ちに陥るわたしを繋ぐのはいつもあなただった。
あの日繋いだその小指だった。

たとえ目の前にあなたがいなくてもね。
不思議なほどに、あなただったの。

…そのうえあの旅が終わってからのあなたは何かにつけてミストに来てくれてたんだから。
信じられないよね?エブラーナの王様なのに。
忙しい中どうやって時間を作って来てくれてたのかな。

でもね、そうやっていつも繋いでくれてたんだよ。エッジは、わたしを。



そして今年もわたしは満開の桜の下を歩く。
風が吹いて舞い散る花びら。薄紅が光の中、柔らかに溶けていく。

一瞬だけ、足を止めて。風に揺れる桜、舞い散る花びらをただみつめる。

なんて…なんてきれいな景色だろう。ほんとうに、夢みたいにきれい。
なんど見たってそう思えてしまう。

「どうした?」

声を掛けられる。さっきまでとなりを歩いてたわたしが足を止めたのに気づいたエッジが、すこし先で同じように足を止めて振り返ってる。
わたしは笑う。

「…さくら。きれいだなって思って」

もう何年も見に来ているのにそんな風に改めて言うわたしに、エッジはちょっと苦笑するみたいになる。
さも『いまさらそれかよ』とでも言いたげなその顔を見ながら、わたしは小走りで駆け寄る。

「だってきれいよねぇ桜。ね、クオレ?」

エッジが片腕に抱き上げてるクオレ。その顔をのぞき込んで訊ねると、クオレは瞬きしたあとこくんと頷く。

「うん、すごくきれいだ。リディアが教えてくれていた通りだな、あたり一面薄いピンク色で。ほんとうに、とてもとてもきれいだ。見たこともないくらい、すごくきれいだ」

一生懸命にそう言うクオレ。そのほっぺもほんのり薄紅色に染まってて…わたしは思わずその桜色のほっぺをそっと撫でる。
初めてエブラーナの桜を見に来たクオレにとってこの景色がどんなふうに映ったのか、キラキラしたその目から伝わってくるよう。

そう、今年もわたしはこの桜を見にエブラーナにやって来て。
これまではひとりでだったけど、今年はクオレとふたり、ミストから足を伸ばして。

…そして。もうすぐわたしは、この国へとやって来る。わたしとクオレはこのエブラーナへと。
ここで、これから暮らすために。エッジといっしょに、生きるために。

風が吹き、舞う薄紅色。
腰のあたりに逞しい腕が回されて、そのままわたしは優しく引き寄せられる。
見上げればほど近くに目を細めたエッジの顔。

こんなに嬉しそうに、こんなに優しく、笑うあなたがいる。
きっとここがわたしの居場所。

「…たしかに。今年の桜もきれいだな」
「うん…きれいだねぇ」

あなたの煙る紫の瞳。残る傷跡。そのすぐそばを薄紅色がひらりとかすめる。
…きれい。とても。とてもきれい。

わたしが口を開きかけた、ちょうどそのとき。

「なあリディア、クオレお腹が空いたんだが!」

子供特有のよく通るクオレの声。それがポンと勢いよく飛び込んできたものだから。
見上げた先でエッジの顔がキョトンとなる。そしてたぶん今わたしも殆ど同じような顔になってるんじゃないかな。
おたがい、そのキョトンとした顔をみつめあって。
ややしてから、思わずわたしたち、ぷっと吹き出す。

「…リディア?エッジ?どうしたんだ?」

笑い出すわたしたちに、今度はクオレがキョトンとする番。
なぜわたしたちが笑ってるのか分かってないだろうその様子が、あんまり可愛くて…あんまり愛おしくて。
わたしは目の端に浮かぶ涙を指でそっと抑えながらクオレに向けて首を振る。

「ごめんごめん、なんでもないの…うん、そうだね、お腹すいたよね。今日は朝ごはんも早かったし」
「おーし!んじゃ昼飯にすっか!今年もエブラーナ特製花見弁当用意してあるぜー!」

ひときわ明るく響くエッジの声。それを聞いたクオレの目がさらにキラキラしだす。
ふふ、こう見えてクオレ、食いしん坊だからなぁ。

「トクセイハナミベントー…!?それ、おいしいのか!?」
「勿論!超絶、美味いぜ!エブラーナ城の料理番たちが毎年腕によりをかけて作ってるからなぁ!それになクオ、今年はおめーもエブラーナに来てくれたからな。料理番連中もより一層気合いの入った花見弁当拵えてくれたってぇ話だ!ま、言うなれば、今年の特製花見弁当は『特製花見弁当デラックス』ってわけだな!」
「トクセイハナミベントーデラックス…!なんだかすごいな!」

盛りあがるエッジの声に、クオレはますます瞳をキラキラさせる。なんて嬉しそうな顔だろ。
それにしても『特製花見弁当デラックス』って…なんだかほんと、すごい響き。
思わずわたしも笑ってしまう。

「少し先のひらけたとこで、爺たちが先に昼飯の用意して待っててくれてっからよ。行こーぜ」
「行こうリディア!トクセイハナミベントーデラックスだ!」

エッジ、クオレ、ふたりからそう促され。わたしはうんと頷き。
そして歩き出す。

さあっと音を立てて風が吹き抜ける。わたしたちを包んで舞い散る薄紅色。


さくらのころに。


…きっと、来年の今ごろも。わたしはまたこの桜の下を歩いてるだろう。満開に咲き誇るエブラーナの、この桜の下を。夢みたいにきれいな、薄紅の景色の中を。
クオレとエッジといっしょに。桜咲く、そのころに。

そしてこれから先のどの季節も、きっと、ずっといっしょに。


あの旅の途中、あなたと繋いだこの小指、あの約束は、きっとこの先も違えることなく繋いだままに…



【END】










このいっこ前の記事にて報告した『まちがえて公開してた記事』というのが本記事であります…思いっきり中途半端な状態の文章で堂々公開しておりました…
今思い出しても恥ずかしい!思い出すたび倒れられるよほんともう…!
こういうウッカリってどうしたら防止できるんでしょうね。

気をつけるしかないですよね…知ってる(知ってるけどなおせない…)


ちなみにこのお話は3年前の桜の季節に書いた若様目線の桜のお話(コレです)のリディアさん視点Ver.みたいな感じのつもりです。
過去の自分が書いた話を別視点として再利用…要するにラクして文章書こうっていう魂胆…キヒヒ。

ちなみにわたしの住んでるあたりは先日の強風にて桜はほぼ散りました。
今年もとてもお綺麗でございました…

4月も気づけば後半。
春は朝晩と昼間の寒暖差が激しいので、体調管理に気をつけねばーですね。
わたしはこないだまで喉の風邪にまたもやられてました…我ながら弱すぎる…


ここんとこ遊びに来てくださった方、拍手押してくださった方、まことにありがとうございました♪
心より感謝!






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