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FF4SS 『それはある日の他愛もないこと』 

2015, 02. 02 (Mon) 22:29

スモカが書いたFF4文章中最古のものを引っ張ってきましたよ。
けっこう手直ししました。なので意味不明部分はない…と思いたい。

セリフは書いた当時そのままです。いつも通り緊張感のないくださらないお話です。


見てやらなくもねーぞってな方は続きからどうぞお願いします。









ふぁぁ…と、思わずあくびが出て。慌ててそれに手のひらでフタする。
いけないいけない。人前でおっきな口を開けてあくびするなんて、お行儀悪いよね。ローザに見られたら『女の子なんだからダメでしょ』って怒られちゃう。
なんて思いながら、あたしは宿の廊下を歩く。

…今朝はちょっと寝坊しちゃったなぁ。みんなもう下で朝ご飯食べてるかしら?








● それはある日の他愛もないこと ●










階段をとんとんと降りていきながら宿の一階の食堂を見渡してみる。探してる人たちの姿を見つけた瞬間、向こうもそんなあたしに気づいてくれて。手を挙げて、こっちを見ながらそれを振ってくれる。

「リディア、おはよう!こっちだよ」

セシルの呼ぶ声。あたしは残りの階段をぱたぱたと降りきって手を振り返す。

「みんなおはよー。ちょっと遅れちゃった」

あいさつを返しながら小走りでテーブルに近づいて。優しい笑顔であたしを迎えてくれるみんなの元へ到着。
まあその中には一人だけ、こっちを見もしないで朝食に夢中な様子の人もいるんだけど…。
セシル、ローザ、カイン、それに朝食に夢中のエッジ。 あたしが旅を共にしてる仲間。そんなみんなはテーブルについて、もうそれぞれ朝ご飯を食べてて。
今日はあたしは少しだけ寝坊しちゃったものだから、朝食に遅れちゃったんだよね。
ローザが「リディアはここね」って隣の席を勧めてくれたから、あたしは頷きながらそこに座った。そうして改めてテーブルに並ぶみんなの朝ごはんを眺めてみる。みんなの前にはそれぞれ違うメニューが並んでる。
…あれ。ローザの食べてるこれ、何だろう?黄色くてふかふかっとしてそうなパン。シロップみたいのがかかってる。なんだか甘くて良い匂いで、すごくおいしそうだなぁ。

「おー。ちびっ子、やっと起きてきたんか」

今気づきました的な様子で、エッジがモグモグしながらあたしを見て言った。そんなエッジはちょうどあたしの真正面の席。今は食事中だからいつもしてる口あての布がない。片頬が膨らんで、もぐもぐと良く咀嚼してる顔。
はぁ…。ちびっ子、だなんて。この人朝からほんと失礼しちゃうなぁ。あたしそんなに背の低いほうでもないのに。
んー…でもまあ、いいか。朝からつっかかるのも何だもんね。
うん、とりあえず無視しちゃえ。

「なんだ王子様。さっきから、リディアはまだ起きて来ないのかとえらくソワソワ気にしていただろうに」
「いや言ってねえよんなこと」

横からのカインの言葉にエッジは顔を顰めて答える。
ふうん…そうなんだ。でもなんであたしが起きてこないからってエッジがソワソワするんだろ? よくわかんないな。
うん、でも、まあいいか!それよりあたしお腹ペコペコだし。

「ねえねえ、ローザの食べてるのなあに?すごくおいしそうね」
「ああ、これ?フレンチトーストって言う食べ物よ」

フレンチトーストかぁ…へえ~。初めて聞いたなぁ。ローザがふふっと優しく笑う。

「ふわっとした食感と優しい甘さで、すごくおいしいわ。リディアもこれ頼む?」
「うん。あたしも同じのにしたい!」

あたしがローザに笑顔で頷くと、セシルがすかさず給仕さんに声を掛けてフレンチトーストをひとつ注文してくれた。 ありがとうって、ローザの横に座ってるセシルの方を覗きこみながらお礼を言う。セシルはにっこり優しく笑ってくれる。
そんなセシルの前にあるお皿にもパンが乗ってて、けれどもそれはローザの食べてるフレンチトーストとはあきらかに違う。

「ねえ、セシルの食べてるのはなあに?」
「僕のはハムとチーズとレタスのサンドイッチだよ」

あ、サンドイッチか!なるほどぉ。
セシルがそのサンドイッチを持ち上げて「こんな感じだよ」と断面を見せてくれる。綺麗な焼き色のついたパリっとしてそうなパンには、具がモリモリ挟んであって。
うーんサンドイッチもかなり美味しそう。しかもなかなかボリュームもありそうだし。
それからあたしはテーブルを挟んだ斜め向かいでスプーンを持ち上げるカインの方をちらりと見てみた。
カインのはなんだろ?綺麗な赤い色してる…何かのスープかな?

「ねえねえ、カインは何食べてるの?」
「…パプリカとキノコと鶏肉のトマトリゾットだ」

淡々とした声がそう答えてくれて、それからスプーンをまた一口、口に運ぶ。
リゾットってたしか…お米をスープで煮た様なやつ…だったはず。
そっかぁ、へぇ~。トマトリゾットかぁ。いいなぁ、それも美味しそう。トマトの味のお料理ってなんでもだいたい美味しいよね。あたしもトマトのスープとか大好きだもん。
それにリゾットっていうこのお料理、なんとなく消化が良さそうな気がする。朝ごはんにはとってもいいかも。
ふむふむなるほど。みんなそれぞれだねぇ… なんて、しみじみそう思って。
それからおもむろに視線をカインの横、あたしの真正面に座る人に動かして…
…うーん?
………ううーん……???

「………なに?」

ぶっきらぼうな声が飛んできたもので、思わずあたしはハッとなる。気づけば食い入るようにエッジの手元をじっと見つめちゃってた。

「…あ。ご、ごめん。あのー…エッジ食べてるの、何かなぁって…」

あたしの声は少ししどろもどろになる。なぜかと言えばさっきのエッジの声がちょっと低く感じたから。無遠慮にしげしげ見ちゃった自覚が充分あったので、少し慌てちゃったんだよね。
それにしても…ほんと、エッジが食べてるのってなんなんだろう…?
それは他のみんなのお料理と比べて、いちばん見たことのない形状をしてた。三角形の…あ、エッジがひと齧りしたあとだから、ちょっといびつな三角形なのだけど。色は白と黒の…なんだか、不思議な食べ物。

「は…?おまえも知らねぇの?にぎりめし」
「…ニギリメシ…??」

思わず繰り返して言ってはみるけど、それはあたしの知らない言葉で。初めて聞く食べ物の名前で。
だからあたしは首を傾げる。すると横からローザが「うんうん」と同意するみたいに頷いてくれる。

「…そうよねぇ。私たちも知らなかったもの」
「僕らもさっきリディアと同じ様な反応したところだよ」

ローザとセシルが続け様に言って。カインもそれとなく小さく頷いたりして。
そうしてそれを見たエッジが「はーあ」と大きくため息をつく。

「おまえらまとめてバロン地方者だもんなー。どーせエブラーナは遠い島国ですよ…オレはマイノリティーですよー…」

ぶつくさ言うエッジ。
…なんだろ。いじけたみたいな口調になって。どうしたっていうんだろ?
ちなみにあたしの住んでたミストはバロンの一地方とかじゃないんだけどな…まあこの際そんなことはいいけどさ。

「…ねぇエッジ、ニギリメシって?」

聞いたことがないその食べ物について知りたくなったから、あたしはそう尋ねてみる。なのにエッジったらふいと視線を外しながらまたため息をついて「…そのまんまだよ」って。その一言できりで答えてみせた。
うー…ちょっとちょっとなによぉー。大雑把過ぎないかなぁその答え方。ていうかそんなの答えじゃないでしょ。
エッジのことをむぅっと思わず見てしまったあたしの横で、ローザが少しだけ困った様な、小さな笑い声を漏らす。

「…ようするにね、握ったご飯なんですって。それをエブラーナでは『ニギリメシ』って呼ぶらしいの。…私たちもさっき分からなかったものだから、まったく同じこと、尋ねたばかりなのよね…」

そんな風に教えてくれたローザの言葉で、あたしはなるほどって納得できた。
つまりは『ニギリメシ』がなんなのかって事を続けざまで2回も訊ねられちゃったってことなのね。だからさっきのあたしへの答えが、なんだかいかにも面倒そうな「そのまんまだよ」の一言きりだったってわけかぁ。
…そりゃあ、知ってはいたけどさ。エッジがちょっと気が短くてめんどくさがりなところがあるっていうの。だけどほんとに知りたかったから訊いたのになぁ…あんなにハッキリ面倒そうにしなくたっていいのにね。
でもまあ、いいかぁ。うん、エッジのめんどくさがり屋っぷりなんていまさら気にしたって仕方ないもん。気にしないでおこっと。
そんな風に思ってたら、またもやエッジがおっきなため息をついたりする。

「…どーせおまえも『エッジ変なもん食べてるー』とか思ったんだろ?」

相変わらずなんだかいじけてるみたいな声であたし目がけて言葉を投げてくる。なんだかジトっとした視線まで向けてくるし。
…変なもんて。あたしべつに、変だなんて。

「思ってないよそんな風に。ただ、見たことないから珍しかっただけで」
「そうかー?ちなみにこいつらはさっき俺が親切に説明してやった上で尚『得たいが知れない食べ物ねー』とか言いやがったぞ」

言ってチッとか舌打ちを最後につけるエッジ。
『こいつら』って括られたセシルとローザがあたしの横で苦笑いを漏らす。カインはひとり全く我関せずって感じに、ペースを崩さずトマトリゾットを食べてるけど。
あたしはなんだかまた首を傾げてしまった。

「…えー?だって、『ニギリメシ』ってご飯を握ったものなんでしょ?…それのどこらへんが、得たいが知れない食べ物なの?」

最後の方、ローザとセシルとカインに向ける形であたしはそう訊ねてみる。その途端にセシルとローザが微妙な苦笑いを見せた。 「うーん」とうなったのはセシル。

「その、なんて言うか…米の部分はもちろん普通に分かるんだ。…けどさ…そこに貼りついてる、その黒いものがね…」
「ええ、そうなのよね…その黒い紙みたいな物体に、私たちなんだか戸惑うのよね…」
「なにしろ黒い紙切れを米に巻いて食べるという風習はバロンには無いからな」

セシル、ローザが戸惑いを含んだ声で言って。そこにカインがあっさりとした調子で続けた。
それを耳にした瞬間、エッジは不機嫌もあらわに眉をぐぐっと顰めたりする。

「紙、じゃねーよっ!!つかエブラーナにだって紙食う風習なんかあるかぁっ!!」

ガルル!!
そんな擬音が付いちゃいそうな勢い。エッジは隣に向かって叫ぶ。そうして隣のカインはさりげなくエッジ側の片耳に手を当てて塞いで、そのまま迷惑そうな様子で顔を背けた。
うん、そりゃ、こんな近距離で叫ばれたら顔も背けたくなるよね。
でもね、エッジが叫んだ通り、いくらバロンからは遠い島国でも、紙を食べるなんて風習はやっぱりないんじゃないかとあたしも思うなぁ…だからエッジがムカっとしてカインに叫んだ気持ちも分からなくないなって思える。
するとエッジは手にしてた食べかけの『ニギリメシ』をずずいっと前に差し伸べてきた。
そしてセシルたちから散々に戸惑われてたご飯に貼り付いてる例の黒い部分を、指でびしっと指し示す。

「これは、海苔!!」
「…のり?のりって、あの、何かと何かを貼り付けるとき使う??」

ローザがポカンとした様子で尋ねるけれど、それにエッジは「いんや」って言いながら首を振る。

「その糊とはちげーよ。これはぁ、海藻の一種の、海苔ってヤツなんだよ」
「へえ…これ、海藻なのかぁ…」

興味を引かれた声になってセシルは呟いて、それからその青い目がまじまじと、ニギリメシの黒い部分を見つめる。
…へぇー。そうなんだぁ…これ、海藻なんだねぇ。つまりは海に生えてる草ってことだよね。
あたしは山育ちだから海のことあんまり詳しくはないけれど、海の中にも草が生えてるんだっていう知識くらいなら一応ある。陸にある草花と一緒で、海の草にも食べられるのがあるんだものね。
つまりは『ノリ』ってのいうのもきっと、そういう食べられる海の草ってこと…よね。合ってるかな?

「海藻をこう、天日干しにしたものーって感じだな。昔っからある食いもんで…まあエブラーナじゃあ最も一般的な白いご飯のお供ってやつなんだよ」

そう説明したエッジに、ローザが頷きながら「へぇー…」とどこか感心したような声を漏らした。

「つまり『ノリ』はエブラーナの伝統的な食べ物ってことなのね…初めて知ったわ。エッジ、さっきは得たいが知れないなんて言ってしまって、本当にごめんなさいね」
「おー。…ま、食文化っつーのはところ変わればだからなぁ。理解しがてぇのもわかんなくはねーけどさ…」

エッジはぶつぶつとした声でローザにそう返す。
うん、たしかにそうかも。食文化って地域ごとですごく違ってたりするものね。みんなとの旅を再開していろんな場所でご飯を食べるようになって、あたしもそれは感じたことがあるもん。
…それにしても。ふうん。ふむふむ。なるほどなるほど。エブラーナじゃ最も一般的な白いご飯のお供の『ノリ』かぁ…。

「ともあれやはり黒い紙を食ってる様にしか俺には見えんがな…」

カインの静かな、けれど良く通る呟き。
当然エッジはそれにムッとなって。キッと鋭くカインを一瞬睨んでから「ほっとけ!!」って、キレのある声で返したりする。そのまま勢いよく顔をフンっと背けたり。
セシルとローザがそんな様子を見て困った感じで小さく笑った。
ふうん。そっかぁ。『ニギリメシ』かぁ。『ノリ』かぁ。
ふーん…ふぅーん……

「ね、エッジ」
「……んだよ?」

名前を呼んだら、まだ不機嫌そうなうっそりとした声。
そしてあたしは椅子からカタンと立ち上がる。それでね、ちょっとお行儀悪いと思いつつもテーブルの上に手をついて、身を乗り出して…
エッジはあたしの真正面の席。さっきからずっと『ニギリメシ』をテーブルの中程まで差し出したままでいる。そう、だからね、ちょっと身を乗り出せばね、いけるんだよね。
エッジの手のひらが握ってるその『ニギリメシ』に、あたしはパクッと齧りつく。

「……っ!?」

瞬間、息を飲んでエッジが驚くのがわかった。それにたぶん他のみんなもびっくりしてる。
でもあたしはいま、口をモグモグするのが精一杯。だって思ったよりも大きな一口分をパクっと口にしちゃったものだから。
そうして口の中には少し塩の効いたふっくらとしたお米の味が広がる。それとともに芳ばしい味と香りが鼻を抜けていって…ああ、これが『ノリ』の味と香りなのかな。
…うん。これってすごく…すごーく…

────ごっくん。

「…っはぁー…!…うん!ニギリメシ、すごーくおいしいねぇ、エッジ!」
「ん、なっ……!?」


どっきんこ王子様。

エッジのニギリメシを一口無断で齧ったあたしは、思わず笑顔になっちゃって。
だってだってこんなにおいしいなんてびっくりしちゃったんだもん!塩味が絶妙な加減で効いてるふっくらご飯と、芳ばしい香りの『ノリ』の相性がすごーくピッタリで…!
なんていうかね、派手さは無いんだけどすっごくホッとするような、そんな味なんだよね。
ああ…あたしすごく好きかも、この『ニギリメシ』っていう食べ物。お米と『ノリ』のコラボレーションが、なんだかとっても絶品だなって思う!

「お…おまっ…!!なに、人の勝手に食って…!!」
「ごめんね。でも、エッジ食べるの見てたら、たまらなくおいしそうだなーって感じて…つい…」

へへって感じに笑いながらそう白状したら、エッジは一瞬うぐっとした感じに詰まる。けれどすぐまたあたしをキッと睨んできた。なんだかワナワナしてる。

「…だからって…なぁ…!」
「だってどうしても食べたくなっちゃったんだもん。我慢できなかったんだもん」

そうやってあたしが返したら、こんどはエッジ、途端にガクンとうなだれちゃった。
深い深いため息の音まで聞こえてくる。

「…あー…もぉー…」

呻くように漏らした声がどこかほんとに辛そうだったりしたもので。そうしてこの段になって今更、あたしは少し慌ててしまう。

「あの、勝手に食べちゃって、ごめんね?…あ、そうだ!エッジにもあとであたしのフレンチトーストひとくちあげるからさ!」

それで許してもらえないかな?って気持ちを込めて交換条件を言ってみたけれど。エッジはやっぱり、ちょっとあたしを睨んできて。
それからその手元に残った、あたしが一口齧ってしまった『ニギリメシ』にチラリと視線を投げかける。
そうしてなぜかほんのり顔を赤くした。その上なんだかちょっと悶えたりもした。

「…んだよぉー…もぉー…」

悶えながら絞り出すみたいにしたその声。悔しそうとうか、堪らなそうというか…それはほんとにほんとに、切実な音。
えーと。そんなにも辛かったってことなのかな。『ニギリメシ』をひとくち齧られちゃったのが。
そのぉ…たしかにね、不意打ちでエッジの食べてるのを奪っちゃったわけだから、悪いことしたのはもちろんあたしだよ?それはちゃんと分かってる。
わかってるんだけど…。
でも、悶えるほどなの?そんなに切実に辛そうになるほどの、ことなの…?
でも恨みがましそうとすら言えるジト目であたしを睨んできたりするエッジの様子を見てたら、なんだかだんだん…ほんとにどうしようもなく悪いことしちゃった気がしてきて。
ただちょっと顔を赤くしてるのは謎だなーと感じるけど…。
もしかしたらね、この『ニギリメシ』っていう食べ物、エッジにとっては誰にも奪われたくない程の大好物だったってことかもしれないものね。それこそひと齧りされるのだって悲劇…くらいの。
うん。もしそうなんだとしたら、こんなに恨みがましいのも仕方ないのかも。
…すごく悪いことしちゃったんだな。あたし。

「あの、エッジ…ほんとにごめんね?」
「…も、反則」
「ごめんなさい…」
「いや、いーんだけどさ…いいんだよほんと。…でも反則。そうくるか、無邪気か。どーしてくれんだ朝から…」
「あの…エッジ…??」
「行き場のないオレの純情…ほんと、どーしてくれんだよ…」
「おれの、じゅんじょう…?」
「罪の無さこそがイチバンの罪作りなんだよ…コンチクショウめぇ~…」
「………」
「オレが。この、オレが…!なんだってこんな体たらくに……それもこれも全て、す、べ、て、おめぇというニギリメシの存在がっ…!!」

…え。なに。どうしよう。
エッジの言ってる呟きがちょっと…ううん、すごく意味不明。しかもなんだかあたしにじゃなくて『ニギリメシ』に向かって会話してるよ。ほんと、どうしよう。
あたしはただオロオロするしかなくて。すると斜め向かいの席のカインから「リディア」と突然名前を呼ばれる。

「おまえは何も気にしなくていい。王子様は少し放っておいてさしあげろ」

静かにお茶を啜りながら言うカイン。その目がいつもよりなんだか少し優しい。
…えと。気にしなくていいの?
そ、そうかな?でもエッジ、なんだか言ってることおかしい気がするんだけど。かなりおかしい気がするんだけど。ほんとに気にしなくていいのかな?
あたしはやっぱりオロオロした気分のままで。そうしたらこんどはふいにポンと肩を叩かれる。横を向いたらにっこり笑うローザと目が合った。

「そうよ。気にしなくていいの、大丈夫だわ」
「でも…」
「今があの人の最良の時間なんだから。至福のひとときを邪魔しないでおいてあげましょ」
「…え?…しふく…??」

…なんだろう。ローザの言ってる意味もさっぱりわからないんだけど…。
最良で至福って、いったいぜんたい今エッジの身には何が起こってるっていうの?
そうしていよいよポカンとするしかないあたしにローザはパチンと綺麗なウィンクをしてきたりした。…そんなこんなでね、結局あたしは、そのどこかお茶目な感じになんとなくこう釣られちゃったというか、流されてみたというか…。
なんだか色々分からないけれど…まあいいかなって。ざっくりと、気にしなくて。
うん。決めた!そうしよ!

「あ、リディア。フレンチトーストがきたよ」

明るい声でセシルが教えてくれた。給仕さんが運んできてくれたお皿を、あたしはお礼を言いなごら受け取る。
お皿の上の、なんともしあわせそうな黄色をしたフレンチトースト。
わっあ~!なんて、なんておいしそう…!とっても良い香りがするよ!
あたしはいそいそ、フォークとナイフを手にする。エッジの『ニギリメシ』をひとくち奪っちゃったものの、それだけじゃお腹は全然膨れないもん。
あーもう、お腹ペコペコだよ!

「いっただっきまーすっ!」

嬉しくて、思わずおっきな声で宣言しちゃう。するとローザとセシルがニコニコしながらまったく一緒のタイミングで「召し上がれ」って言ってくれて、その声はとっても綺麗にハモってたりしてね。なんだかそんなことさえ嬉しく感じられるの。
そうしてあたしはいざ、朝ごはんに取り掛かる。フワフワの、とっても幸せそうな黄色をしたフレンチトースト。ナイフを入れたら簡単に切れるくらいに柔らかくて。たっぷりシロップのかかったそれを、フォークで口に運ぶ。
…わぁ…なーんて、ふわっふわぁ…!
こっくり甘くて、でも全くしつこくなくて。ああもう、なんてなんてなんておいしいんだろ!もししあわせにも味があるなら、もしかしてこんな味なんじゃないかなって思えるくらい…もううっとり。
ふふ!朝から幸せ、噛みしめちゃう。そんな風にあたしは朝ごはんを満喫する。
一方エッジはといえば…手元の『ニギリメシ』をどことなく熱っぽい感じのする視線で見つめながら、なんだか悶えてみたり、ぶつぶつボヤいていたり…ほんとに何なんだろこの人。どうしたっていうんだろ。
…前から知ってはいたことだけど。改めて、あたしは今強く思う。エッジって、たぶんちょっと変わってる。あんなに熱烈な視線で『ニギリメシ』と向き合ってるなんて、ちょっと変としか言いようがないもの。ううん、ちょっとじゃないよね。かなり変だよね。
…うん。まあいいんだけど。エッジがどんなに変人だったとしたって、あたしにはあんまり関係のないことだし。『ニギリメシ』に恋してるみたいな熱視線送ろうがどうしようが関係ないんだもの。それに朝からエッジの変な人っぷりばかりに気を取られるのもなんだし。
うん、まあいいってことで。 エッジのことはこれ以上は気にしないでおこ。うん!
………そう。気にしなくていいはず、なんだけどさ。
でも不思議なのはね、どうしてかそういうエッジばかり気にしちゃうあたしがいること…なんだよねぇ。今もあたしが一口齧った『ニギリメシ』をなんだかじーっと見てるエッジ。さっきまでは悔しそうに見えたその顔は、今は妙にぽけーっとしてる。相変わらず頬がちょっと赤くなってて。
なんなんだろう、あの様子…ぜったい変だと思う。やっぱり変な人だと思う。
なのにあたしはそんな変なエッジのことばっかり、やっぱりやっぱり気になっちゃって。
うーん…自分の事ながら謎すぎるよ。『ニギリメシ』を一心不乱に見つめてる人のこと、どうしてこんなに気になっちゃうんだろう?
…はぁ。
なぞだぁ…。

そうしてあたしはそんな謎の気持ちを抱えたまま、それでも『まあいいか』って思い直しながら、残りの美味しいフレンチトーストをいただくことにしたのだった。


*END*


【追伸】
──王子様が、幸せそうに蕩けながら、リディアに齧られたニギリメシの残りをやっとこさお召し上がりになられたのは、みんなの朝ごはんがとうに終わってからのことでしたとさ。

おしまい。




*アトガキ*
なぞのお話…。
リディアがエッジの食べてるものを無許可で齧って、エッジがキョドったら可愛いのに…というアホな妄想です。
若様こんなに純情じゃねーだろっていう気もしますが、普段余裕綽々な人がこんな事でアワワしてるとかスモカ的には萌えますなぁというワケです。

にしてもリディアが齧ったところを後からコッソリひとり幸せそうに食べてる若様は変人というよりヘンタ…ゴニョゴニョゲフンゲフン。
いつもながらに1ミリもカッコ良くないエッジさんでした。まあそれがスモカクオリティーなのです。

ともあれいつもながらにヘンテコな話ですみません。
ここまでお読みくださった方がいらっしゃいましたらどうもありがとうございました。

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